学科紹介

「国際プロジェクト部門」

〜国際社会で活躍できる人材育成を目指して〜

新領域創成科学研究科国際環境協力コース

       小澤一雅

(土木工学科・社会基盤工学専攻 兼担)

 工学部土木工学科では、国際社会で活躍できる人材育成を目指して、平成15年度から「国際プロジェクト部門」を新設しました。併せて、学科名も平成16年4月より、土木工学科から社会基盤学科に変更します。この「国際プロジェクト部門」について、ご紹介いたします。

◆ 国際社会で活躍できる日本人

 わが国の国内経済は曲がり角を迎え、多方面で構造改革が叫ばれています。国境の垣根は、ますます低くなり、世界標準(グローバルスタンダード)が押し寄せてくるとともに、環境問題のように地球全体で取り組むべき課題も山積しています。これからは、コミュニティのような地域社会で貢献できる人材とともに、国際社会で活躍できる人材が求められているといえます。例えば、世界銀行やアジア開発銀行などの国際開発や国際協力を推進する金融機関、ユネスコやUNDPなどの国連関係の機関、世界を股に駆けて活動するNPOや企業グループなど現場でプロジェクトを推進する諸機関、日本人が活躍すべきフィールドは世界に大きく広がっており、そんな国際社会で活躍できる日本人を育成したいと考えています。

◆ 「国際プロジェクト部門」での教育

 国際社会で活躍するためには、幅広い知識と経験が要求されます。元来、土木工学・社会基盤工学(英語では、Civil Engineering)は、市民のため、社会のための工学として生まれ、「公共・技術」をキーワードに教育が行われてきました。人々の生活を支える技術を活かすためには、そのマネジメントや社会運営のしくみそのものも考える必要があります。国際プロジェクトにおいては、日本とは異なる社会についても考える必要があります。

 これらの知識やスキルを習得するために、「国際プロジェクト部門」では、以下のようなカリキュラムを用意しています。

●国際プロジェクトに関する基礎知識

 国際プロジェクトの実施に必要な基礎的知識として、社会基盤学・経済学・法学・国際関係・公共財政学の基礎を習得します。

●国際プロジェクト形成,実施の専門知識

 国際プロジェクトを実際に形成、実施するための専門知識を習得します。例えば、世界各国の社会資本、都市経営、地方自治行政・財政などに関する知識、プロジェクトの経済・財務分析に関する知識、プロジェクト実施手法に関する知識などが含まれます。

●国際舞台で活躍するためのスキル育成

 国際社会で活躍するためには、異文化を理解したうえでコミュニケーションを図れることが必要です。英会話の授業を提供する(学科専属の英語教育を専門とするネイティブスピーカー教師による)とともに、プロジェクトの実施に必要な英語による議論や読み書きなどの基礎的スキルを習得します。

●卒業研究プロジェクト

 卒業研究では、海外で行われる実際のプロジェクトを題材として、プロジェクト研究を行います。

◆ 海外実習・インターン・留学

 海外で得た体験、経験は、国内では得られない大きな糧となります。将来のための世界的な視野をもつためにも、海外での経験、外から日本を眺めることは、非常に重要なことだと考えています。学部生および大学院生を対象に、海外実習・交換留学・インターン制度として、以下のメニューを用意しています。

●海外夏季実習

 3年生を主な対象として夏休みの1~2ヶ月間に実施する短期実習制度です。欧米(ケンブリッジ大学、コロンビア大学など)並びにアジア(清華大学など)の大学に10名程度派遣され(平成14年度実積13名)、大学の寮などに滞在して研究活動に参加します。訪問先での生活をよりスムースにするために、国際コミュニケーショントレーニングクラス(短期特訓コース)も開講しています。

●交換留学

 英国ダーラム大学ビジネススクールとの交換留学制度(毎年2名程度)を実施しています。MA Management (修士課程)に進み、マネジメント、リサーチメソドロジー、経営/会計、組織論等を学ぶことができ、その後、MBAの取得といった道も開かれています。また、工学系研究科の交換留学制度を利用して、北米ならびに欧州の大学に留学する修士の学生も多数みられます。

●ADBインターン

 フィリピンのマニラに本店のあるアジア開発銀行(Asian Development Bank)において、 1年程度(昨年度は、約9ヶ月)のインターン(研修)を経験できる制度(毎年3名程度)を実施しています。大学院生が、国際開発・プロジェクトに関わる実際の業務に携わり、プロジェクトの実態に触れることができます。プロジェクトの現地を訪れるミッションに同行できる場合もあります。さらに、得られる成果を題材にして、修士研究を実施しています。

 英語での議論、交渉、報告等を、時に価値観の異なる人たちを相手に日常的に行うことが求められます。これらの制度の経験者を見ていると、いずれも大きな成長を遂げていることにいつも驚かされます。また、実習先、留学先で培われた人脈は、おそらく将来の貴重な財産となるものと期待しています。

◆ 海外プロジェクト

 実際の国際のプロジェクトに直接関わり、これを通して人材の育成に役立てることを目的に、平成13年4月に、当学科および専攻の教官が出資して、株式会社ユーティーシーイーを設立しました。この会社を通して、海外のプロジェクトを卒業論文や修士論文等の課題として取り上げ、国際援助機関に対するコンサルタント業務を行うことが可能となります。現在までに、国際協力銀行(JBIC)の依頼を受け、国際プロジェクト・援助に関わる案件支援調査・評価を実施しており、ホームページにこれまでの実績が掲載されています(http://www.utce.co.jp)。

 例えば、マニラ水道事業の民営化についてのインパクト評価に関する調査では、現地(マニラ)でのデータ収集のためのミッションに学生も同行し、民営化された事業会社へのヒアリング、水道管ネットワークが敷設された地域の視察、新たに水道が提供された貧困地域へのインタビュー等に参加し、レポート作成に貢献しています。海外プロジェクトの現場に直接触れることができるのが、大きな収穫となるはずです。

◆ その他の活動

 韓国ソウル国立大学、国立台湾大学、東京大学の土木工学科が協力して、3大学の学生交流会を開催しています。1993年から開始し、今年で10年目を迎えます。3大学で順番に各国で主催し、討論会、現場見学会、スポーツ大会等の種々のイベントを通じて、新たな友人作りや人的ネットワークの形成に成功しています。また、韓国や台湾の学生との直接の交流をとおして、アジアの中の日本という視野が開かれることを期待しています。

◆ 将来展望

 昨年、「国際プロジェクトコース」を設置し、本年度から進学振り分け部門として「国際プロジェクト部門」がスタートします。当部門、当コースを卒業した学生諸君が、将来、国際社会で大いに活躍してくれることを願っています。そのためには、卒業後にも多くの経験が必要でしょうし、海外の大学で博士号(Ph.D)取得を目指す方もいるでしょう。世界を股にかけたNPOやビジネスを起業する方もでてくるかもしれません。今後は、本プログラムへの社会人の受け入れや他研究科、他大学、他国との連携による教育も検討しており、プログラムのさらなる充実を考えています。

◆ おわりに

 イチローや松井、浜崎あゆみなど、国際舞台で活躍できるのは、一部の特殊な分野の人たちだけではありません。国際社会は、若いあなた方の参加を待っています。そして、桧舞台にたてるよう自身を鍛え、高める努力を一緒に挑戦してみませんか。理科系・文科系を問わず、あらゆる分野からの学生を受け入れたいと考えています。


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