―化学のフロンティア― 応用化学

             工学部応用化学科

           学科長  澤田 嗣郎

「応用化学」は昨年度、工学部の大学院重点化を機会に、「化学システム工学」、「化学生命工学」と共に化学・生命系の3つの進学コースの一つとして新たに出発しました。「応用化学」は特に物理化学、分析化学、無機化学を学問領域とする研究室で編成されています。ここで、「なあんだ、あんまり特色ないじゃん」と次ページをめくる諸君もいるかも知れません。その既成のイメージを覆し、少しでも化学のフロンティアとしての新しい「応用化学」を知っていただくのがこの紹介の目的です。

 学問は生きています。どんどん新しい学際領域、つまりフロンティアを生み出しているのです。当然のことながら、私達もいつまでも古びた学問分野に留まっていることは許されません。既に物理化学、分析化学、無機化学といった学問領域だけで「応用化学」を捉えられないのです。工学と言っても工業のための研究ではありませんし、基礎的研究を行うという点では理学との違いもありません。また場合によっては物理や数学を道具として使います。このように急速な学問の進展のなかで、「応用化学」は化学、物理、エレクトロニクスの学際領域にフロンティアを求め、エネルギー、物質、環境、情報といった21世紀における人類的課題を解明するための基礎と応用を学問研究しているのです。

 それでは「応用化学」では現在どのような研究を行っているのでしょうか。イメージを具体化するために、「応用化学」を構成する各研究室の研究分野と内容についての概要を紹介しましょう。きっと諸君も化学のフロンティアとしての「応用化学」を発見されるでしょう。

「量子材料化学」 理論化学(電子状態理論、動力学理論)を基礎に、分子の電子構造や化学反応を微視的レベルで解明し、理論化学に先導された分子工学の展開をめざす。

「工業物理化学」 金属クラスター超微粒子、有機超薄膜、導電性高分子などのナノスコピック材料を用いて、高機能物質変換、光エネルギー変換、電子移動などの現象を追及する。

「エネルギー反応工学」 エネルギー変換および有機合成のための触媒工学(メタンの活性化、バイオマスの高効率糖化)の解明利用により、エネルギーと環境問題に取り組む。

「触媒基礎工学」 触媒作用を原子分子レベルで解明し、新しい発想で未来型触媒を創造する。地球環境保全システムに関連した極限条件下で作用する高活性触媒の設計・開発を行う。

「機能光工学」 光と電気の関係した化学現象に注目し、機能性材料(高密度記録素子、半導体素子)、光界面現象、界面物性、光エネルギー変換(光触媒反応)の基礎的研究を行う。

「化学情報工学」 シンクロトロン放射光、走査トンネル顕微鏡、レーザーラマン分光法などの技術を駆使し、新しい原理に基づく化学計測、構造解析システムの開発を行う。

「化学計測工学」 超高感度生体計測工学、光熱変換効果、非線型レーザー分光など物質の量子構造に基づく物性や超微量生体成分などの分析計測システムを開発する。

「インテリジェント材料学」 自己修復、チューニングの可能性を持つ湿度センサー、可燃性ガスセンサー、自己診断機構をもつセラミックス材料の設計、機能の解明を行う。

「超伝導材料学」 化学組成と結晶構造の完全に制御された超伝導体の設計と合成、材料実用化のための基礎研究、基盤技術としての超伝導エネルギー工学の展開を行う。

「エネルギー材料学」 化学、物理、エレクトロニクスを基礎に、高温超伝導メカニズムの解明、電荷密度波物質・フラーレンの化学、原子位置指定トンネル分光法の開発をめざす。

「化学方面研究室」 ゼオライトの分子形状識別能を利用した高選択的反応の開発や触媒作用の解明、ゼオライト薄膜の合成と分離機能への応用に取り阻む。

 どうです、「応用化学」のイメージが一新されたでしょう。諸君の卒業研究、さらには大学院での研究として取り組みたいテーマや所属してみたい研究室が見つかりましたか。専門的なキーワードだけでチンプンカンプン?それでは本郷の研究室を是非訪ねてください。教官や諸君の先輩が懇切丁寧に説明します。新たな化学のフロンティアを共に開拓しましょう。

    (連絡先:山下晃一助教授 内7228)


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