−チャレンジの工学− 化学システム工学         

工学部 化学システム工学科

学科長 吉田 邦夫

 ハイテク量産工業製品の時代は終ったと言われています。自動車の国内生産ほ1,100万台に落込み、いずれは700万台になるとの予測が出ています。家電製品でも魅力的な新製品が見つかっていません。ハイビジョンであると言われて久しいのですが、わが国の住宅事情では大画面化に限界があり、今のテレビだけで十分というところです。景気が良い話はTVゲームだけと言って良いでしょう。

 私達が開発すべき工業技術ほ、もはや余り無いのでしょうか。家庭には家電製品が溢れています。工場でもオフィスでも自動化やOA化が進み、今風に言えばアメニティ豊かな職場となっています。しかし、この両者をつなぐ通勤は地獄です。環境意識が高まる中で、ゴミ処理やリサイクルが話題になります。ここでも窒素酸化物を出さない優れた燃焼技術は開発されています。しかし、街の角々に積み上げられたゴミ袋の汚さ、そしてゴミ集積車が撒き散らす公害はひどいものです。医療技術の進歩は素晴らしいのですが、病人だらけの待合室で長時間待たされる状況に何の改善も見られません。

 このような例は沢山思いつきますが、そこに共通するものは何でしょうか。私達が作り上げてきたのは、個々の技術にすぎず、それを有機的に繋いだシステムを作ることを怠ってきたと言えないでしょうか。システムとは、相互に機能的関連を持つ幾つかのサブシステムの集合体であり、所定の目的を達成するための各機能が適当に配分されたものです。そして対象とするシステム以外の他のシステムをまとめて環境と呼びます。

 現在の化学産業は、石油を中心とする原料に各種の操作を加えて、より付加価値の高い製品を生産することを目的とするシステムです。単位システムは化学反応ばかりでなく、加熱・粉砕・攪拌・蒸留・乾燥といった諸操作から成り、それを有機的に組み合わせることで1つの生産システムが出き上がります。この単位システム間を物質とエネルギーが流れ、種々の変換を受けます。

 システム全体を漫然と眺めても特質や改善点を見い出すことは容易ではありません。構成する単位システムに分け、夫々の物質とエネルギーの流れ、変換行程を解明し再び最適ネットワークに組み上げる方法論が必要で、化学システム工学科の講義を通じて学ぶことになります。

 化学産業は、省エネルギー化と無公害化のためのクローズト化を厳しく求められています。その実現にはシステム工学の思考が不可欠です。対象はポリエチレンの重合などの化学プロセスにとどまるものではありません。地球に注がれた太陽エネルギーがどれだけ大気に吸収され、どれだけ大気圏に反射されるか、地表に達した分の中で地中に吸収される量、植物に受け止められる量はいくらかといった流れを見ること、あるいは燃焼から排出される炭素ガスが大気、海洋、植物などの間で、どのように吸収、固定、排出などがおこなわれ、循環されているかを見ること、そして炭酸ガス排出のないクリーンエネルギーシステムを考えることも、化学システム工学が取り扱う重要な対象となります。

 化学システム工学科は10研究室で構成されています。地球環境の分野では酸性雨のメカニズム解明とその抑制システムの開発、森林によるCO2固定と炭素循環システムのモデル化など、エネルギーの分野では水素エネルギーによるクリーンエネルギーシステムの構築、スペースシャトル燃料の開発と燃焼システムの解析など、情報の分野では多変量解析法を用いたソフトウェア開発による品質管理、ファジー理論応用のデータ解析手法など、機能材料の分野ではCVD法によるダイヤモンド薄膜の合成と新しいデバイスの開発、高効率燃料電池システムに用いる電極材料の開発と機能評価など時代を先取りし、リードしようという意欲があふれた研究が実施されています。

 日本の社会システムの改善は勿論ですが、地球という巨大システムを豊でクリーソなシステムとして子々孫々に引き渡すべく挑戦する元気な諸君を待っています。


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